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泡沫の虹

壊 【1】

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その次の日の朝、井筒屋の奥はちょっとした騒ぎになっていた。


「夜、お嬢さまはちゃんといらしたのね?」


女中頭の女の声が鋭くかけられる。それに対して、夕べの戸締りを見回った下女二人は、こくこくと頷くことしかできなかった。


「ねえ、あのことは言わなくてもいいわよね」

「うん。だって、あの時はちゃんといらしたんだし……」


夕べ、糸の部屋に誰かが忍んできていたことを話した方がいいかと、二人はぼそぼそと喋っている。もっとも、このことを口にするのは、戸締りの時間が遅かったと白状するようなもの。

それをしたくない二人は、糸が部屋にいたことは間違いないのだからと、口をつぐんでいることにしていた。そんな二人の様子に女中頭はため息をつくことしかできない。


「あなた方、本当に何も知らないの?」


下女たちの様子から、何かを知っているのではないかと思った女中頭の声は、不審感を丸出しにしたもの。しかし、彼女たちも遅い時間の戸締りを叱られるのはわかっている。女中頭の叱責に負けないようにと、互いにくっつきながら応えていた。

この調子では、彼女たちから返事はもらえない。そう思った女中頭はわざとため息をつくと、言葉を紡いでいた。


「わかったわ。とにかく、いつもの仕事に戻りなさい。そのかわり、何か思いだしたことがあれば、すぐに教えなさい」


その声に二人は大きく頷いている。今のところ、それを信用するしかないと、女中頭は疲れたような表情を浮かべていた。

しかし、このことを黙っておくわけにはいかない。かどわかされたのか、自分から消えたのか。どちらにしても、主人である清兵衛には伝えておかねばならない。

だが、このことを知った時の清兵衛の反応が怖い。そう思った彼女だが、どこか覚悟を決めたような色で、清兵衛の元へと向かっていた。


「今、何と言った?」


その女中頭の報告を耳にした清兵衛はポカンとした顔でそういうことしかできない。彼にしても、糸が自分から姿を消したとは考えられない。

それならば、神隠しかかどわかしだろう。しかし、店の戸締りはきちんと行われている。そんな中から、糸を連れ出すことができるというのか。そんな思いが、清兵衛の胸にはある。

だが、糸がいないのが事実なのは間違いない。彼はなんとかして、糸を見つけなければならないと焦っていた。


「すぐに人を出して糸を捜せ」


その声に女中頭は頷くと、気になったことを問いかける。


「旦那さま、番屋には知らせましょうか」

「うむ……念のために知らせておいた方がいいか……」


まだ、かどわかされたと決まったわけではない。そのため、番屋に連絡して大袈裟にするのもいけないか。そんな思いが清兵衛の中にはある。その時、バタバタという足音と一緒に、若い手代が慌てたような顔で店の表に走ってきた。


「旦那さま、弥平次がおりません」


その声に、清兵衛の顔が一気に強張る。そんな彼の視界の中に、番頭の嘉兵衛の姿が入ってくる。その姿を認めた清兵衛は手代に弥平次を捜せ、と告げると嘉兵衛の側に近寄っていた。


「嘉兵衛、糸がおらぬが、どこに行ったのか知らぬか?」

「お嬢さんが? しかし、夕べはたしかに……」


清兵衛の言葉に、嘉兵衛はうろたえることしかできない。夕べ、糸は間違いなく部屋にいたのだ。そのことは、彼女を手籠めにしようとしていた彼には間違いないと言い切れる。

しかし、それが下女の声で叶うことなく、また糸の反撃で股間を強打された。そんな心身ともに痛手を受けるという経験をした嘉兵衛は、清兵衛の問いかけに明確は返事をすることができない。


「嘉兵衛、糸を抱いたのではないのか?」

「そ、それは……」


嘉兵衛は、清兵衛の問いかけにしどろもどろの状態で応えることしかできない。そんな彼の様子に、清兵衛は何かを感じたのか、その眉を不機嫌そうに寄せている。


「どうしたのだ。なぜ、返事をしない」

「そ、それは……」


清兵衛の問いかけには応えないといけない。しかし、今の嘉兵衛にはそれができない。

彼は、清兵衛の痛いような視線を感じながらも、体を小さくするだけ。そんな彼を見た清兵衛はため息をつくしかできない。そんな清兵衛の様子を感じた嘉兵衛は、胸の奥底でギリギリと怒りを噛みしめていた。



◇◆◇◆◇



「旦那さま、どうしてそんなに不機嫌なのですか」


久しぶりにやってきた嘉兵衛の様子がただならぬものだと感じた胡蝶は、彼にしなだれかかりながらそう問いかける。しかし、その声にも嘉兵衛は応えることがない。そんな彼に胡蝶は心配そうな視線を向けていた。


「本当に、何かあったのですか? あちきに話すことで、少しは気持ちも紛れるでしょうに」


その声にも、嘉兵衛はこたえようとしない。そんな彼を見た胡蝶は、大きく息を吐いていた。


「本当に、どうなさったんです。先日はご機嫌もよくて、あちきは本当に嬉しかったですのに」


そう呟くと、胡蝶は嘉兵衛の胸に顔をうずめる。その彼女の髪の匂いを嗅ぎながら、嘉兵衛はため息をついていた。その彼の様子が気になる胡蝶は、問いかける言葉しか出すことができない。


「あちきでは、旦那さまのお役にたてませんか? あちきは旦那さまのためでしたら、何でもしようと思っておりますのに」


そう言うと、胡蝶は頭をますます強く嘉兵衛の胸に摺り寄せ、白い腕を彼の背中に回している。そんな彼女の蠱惑的な姿態に、嘉兵衛はようやく言葉を発していた。


「このままでは、お前との約束を守れそうもないと思ってな」


その言葉に、胡蝶は体をビクンとさせる。彼の言葉は、彼女には思ってもいなかったことだからだ。胡蝶は嘉兵衛の言葉を否定するようにその胸にしっかりとすがりついている。


「旦那さま、そんな寂しいことをおっしゃらないでくださいな。あちきは、旦那さまのお言葉だけが頼りでしたのに」


そう囁いた胡蝶は、何がこれほどまでに嘉兵衛の心を沈ませているのかと、必死になって考えている。そんな中、彼女は婢がある人物を見た、という話を思い出していた。


「旦那さま、あちきがお役に立てるかもしれません」


胡蝶のその言葉に、嘉兵衛が弾かれたように彼女の顔をみつめる。その嘉兵衛の顔を両の手で挟んだ胡蝶は、静かな調子で言葉を紡いでいた。


「今日の朝、早くの話です。あちきの世話をしてくれてる婢が、井筒屋のお嬢さんの姿を見たと言っておりました」


その声に、嘉兵衛の表情が一気に明るいものになる。やはり、このことが嘉兵衛の心を蝕んでいたのだ。そう思った胡蝶がその先を続けようと口を開く前に、嘉兵衛が気色ばんだ様子で、彼女に言葉を投げかけていた。


「胡蝶、その話は本当か?」


その勢いの凄さに、胡蝶は頷くことしかできない。その胡蝶の肩を揺さぶるようにして、嘉兵衛は言葉を続けていた。


「胡蝶、その婢に会わせろ。お前の言葉を疑っているわけではない。だが、直接、話がききたい」


ここまで激しい様子の彼は、床の中でも滅多にないだろう。そのことに気がついた胡蝶は、どこか寂しいものを感じながらも、彼の言葉に従うしかないことを悟っていた。


「わかりやした。旦那さまがお聞きになりたいというのなら、すぐにこちらに呼び寄せます」


そう言った胡蝶は、大きく手を叩くと婢を呼び寄せている。廓でも中の上に位置する彼女の呼びかけに飛んできた婢は、その場に嘉兵衛もいることにすっかり驚いていた。そんな彼女に、胡蝶は優しく声をかけている。


「そんなにかしこまらなくてもいいんだよ。お前が今日、あちきに話してくれたことをここにいらっしゃる旦那さまにも、聞かせてあげとくれ」

「は、はい……」


胡蝶の言葉に婢は体を震わせることしかできない。まさか、彼女が旦那である嘉兵衛といるところに呼ばれるとは、思ってもいなかったのだ。

それでも、いつまでもそれではいけないと思った彼女は、下を向いたまま震える声で応えている。


「今朝、まだ夜が明ける少し前です。ここの前の道を井筒屋のお嬢さんが男の人と一緒に走っていくのを見たんです」

「それは間違いないのか」


嘉兵衛の声が、荒々しい語気を伴って婢にぶつけられる。その勢いに彼女はますます小さくなりながらも、ハッキリとした声で自分がみたことを告げている。


「はい。井筒屋のお嬢さんといえば、あたいでも顔を存じております。その方が夜明けを告げる鶏が鳴く前に男の人と一緒にいたんです。もう、肝を潰して、胡蝶姐さんにお知らせしたんです」


その声に嘉兵衛は何かを考え込んだような表情になっている。そんな顔のまま、彼は婢にもう一度、問いかけていた。


「では、どちらに行ったのかまでは覚えていないか? それと、一緒にいた男はどんな奴だった」


嘉兵衛の声に、婢は自分の記憶を掘り起こすような表情を浮かべる。そして、今度は顔をあげると嘉兵衛の目を見ながら応えていた。



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