「AFFAIR」
たとえ、これが恋だとしても・第Ⅰ部
出会いは波乱とともに 【4】
担任のそんな声に、生徒は一斉にざわめきだしている。その喧騒をパンと大きく手を叩いたことで止めた相手は自分のことを話し始めていた。
「俺のことは知っているだろうが、一応な。名前は野口和夫、担当教科は数学。他にもいろいろと。ついでに、個人的にカウンセリングもOK。悩みがあるヤツはどんとやってこい」
冗談めかしたその声に、クラスの面々は笑い出している。そんな陽気な雰囲気の中、野口は亜紀を指差していた。
「じゃあ、次はお前らの番。そこの女子から順番だな」
その声に、どうして一番初めになるんだろう。そんな思いが亜紀の中にあるのは間違いない。だが、名簿順に並んでいる今の席順では仕方がないか。自分の中でそういう結論を出した亜紀は、ゆっくりと立ち上がる。
「一條亜紀といいます。よろしくお願いします」
何を言っていいのか分からない亜紀は、名前だけを告げるとペコリと頭を下げている。彼女のその姿に野口は苦笑を浮かべているが、生徒たちは一気に興奮状態に陥っていた。
「ねえ、一條っていわなかった?」
「ひょっとして、理事長の親戚?」
「違うんじゃないの? 理事長の親戚に、高校生はいないわよ」
「でも、ひょっとしたら……なにしろ、彼女、外部だろう? 今まで見たことないんだし。となると、その可能性って否定できないよな」
クラスメイトたちの囁きは、いつまでも止むことがない。それどころか段々と大きくなり、亜紀のことを興味深そうに眺めている。
彼らの遠慮のない視線というものに居心地が悪くなった亜紀は、顔を真っ赤にしながらうつむくだけ。それでも、思い切って何かを言い返そうとしたとき、野口が大声でその場を一喝していた。
「まったく、高校生にもなってやることは幼稚園以下か! 噂で人のことをとやかく言うんじゃない! それから、同じクラスの仲間のことを興味本位で話題にするな。はい、次!」
野口の迫力に全員が毒気を抜かれてしまったのは間違いない。その証拠に、それからはスムーズに自己紹介が続いていく。
そして、その場にいた全員がし終わった時、野口は席が一つ空いていることに気が付いていた。
「一條の隣が空いてたな。あそこは……あいつか。おい、緒方をどこかでみなかったか?」
野口の問いかけにクラスメイトはお互いに顔を見合わせている。それでも、教師の言葉には応えないといけないと思ったのだろう。一人がおずおずとした調子で返事をしていた。
「学校には来ていたと思います……入学式の始まる前に、掲示板のあたりで姿を見ましたから」
「はぁ……一応、来てはいるんだ。それなのに、ここにはいない。まったく、あいつは……」
野口が頭を抱えながら本気でぼやいたその時、教室の扉がガラリと開く。それを同時に「遅れました」といいつつも、本気で悪いとは思っていない響きの言葉と一緒に入ってきた姿。その相手を見た時、亜紀はすっかり驚いてしまっていた。
「あ、あなた……」
思わず相手を指差すことしかできない亜紀。そんな彼女の様子にも興味ない、というような顔で相手は教壇に立っている野口にだるそうな調子で問いかけていた。
「先生、俺の席ってどこ?」
「遅れてきたくせにいい態度だな。席順、ここに貼ってるんだが見えないのかな?」
「先生が立ってるから見えないんですけど」
野口の言葉に相手は反発するような言葉しか口にしない。そんな彼の態度に、呆れたような調子で野口が応えていた。
「そうかい、そうかい。じゃあ、一応、教えとくよ。お前の席はそこ。一番前ね」
「げ、なんでそんな席」
「文句を言うな。ついでに、隣は外部入学者だから。隣のよしみもあるし、面倒みてやってくれ」
「面倒くさい……」
「何か言ったか?」
「いいえ、別に」
どこかふてくされたような調子でそう言った相手は指定された席、つまり亜紀の隣へとゆっくり移動してくる。その姿を見た亜紀は朝のことを思い出したのかプイッと横を向く。
その顔はどう見ても『避けています』というようなもの。そんな彼女の姿に相手も何かを思い出したのだろう。クッと喉を鳴らすと、ドシリと椅子に座りながら声をかけてきた。
「お前、朝のヤツだろう? 俺は緒方浩二(オガタコウジ)。お前は?」
「い、一條亜紀よ。朝は大声だしてゴメン」
そう告げるなり、亜紀は横を向いてしまっている。そんな彼女の姿に、浩二の口から漏れる「お前が一條ね……」という呟き。しかし、亜紀はそれに気が付くことはない。
そして、ようやくクラス全員が揃った。そのことに安心感を抱いた野口が、緊張感のない声で号令をかける。
「よし、やっと全員そろったな。それぞれに個性はあるが、クラスメイトだ。お互いに協力し合っていいクラスにするように。それから、今日はこのあたりにしておくから、気を付けて帰れよ」
そう告げた野口が教室を後にする。それと何人かの女子生徒が亜紀のそばに駆け寄ってくるのは、ほとんど同時だった。
「あの……あなた、一條さんよね?」
「あ、はい……そうですけど……」
一体、どうかしたのだろうかと亜紀は目をパチクリさせている。そんな彼女のそばに集まってきた面々は、一斉に質問を投げかけてきた。
「一條ってことは、理事長とは知り合いなのよね」
「外部からっておききしたけれども、何か事情がおありだったの?」
矢継ぎ早に質問を繰り返してくる相手の目はキラキラと輝いている。この場合、どのように返事をすれば一番、穏やかに話がすむんだろう。
そんな思いが亜紀の中にはあるのだが、周囲の迫力におされたのか、なかなか言葉が出てこない。そして、訊ねてきた相手は亜紀の返事を興味津々といった態度で待ち構えている。
「あ、あの……」
「ね、一條さん。教えて下さらない?」
「え、えっと……」
「俺のことは知っているだろうが、一応な。名前は野口和夫、担当教科は数学。他にもいろいろと。ついでに、個人的にカウンセリングもOK。悩みがあるヤツはどんとやってこい」
冗談めかしたその声に、クラスの面々は笑い出している。そんな陽気な雰囲気の中、野口は亜紀を指差していた。
「じゃあ、次はお前らの番。そこの女子から順番だな」
その声に、どうして一番初めになるんだろう。そんな思いが亜紀の中にあるのは間違いない。だが、名簿順に並んでいる今の席順では仕方がないか。自分の中でそういう結論を出した亜紀は、ゆっくりと立ち上がる。
「一條亜紀といいます。よろしくお願いします」
何を言っていいのか分からない亜紀は、名前だけを告げるとペコリと頭を下げている。彼女のその姿に野口は苦笑を浮かべているが、生徒たちは一気に興奮状態に陥っていた。
「ねえ、一條っていわなかった?」
「ひょっとして、理事長の親戚?」
「違うんじゃないの? 理事長の親戚に、高校生はいないわよ」
「でも、ひょっとしたら……なにしろ、彼女、外部だろう? 今まで見たことないんだし。となると、その可能性って否定できないよな」
クラスメイトたちの囁きは、いつまでも止むことがない。それどころか段々と大きくなり、亜紀のことを興味深そうに眺めている。
彼らの遠慮のない視線というものに居心地が悪くなった亜紀は、顔を真っ赤にしながらうつむくだけ。それでも、思い切って何かを言い返そうとしたとき、野口が大声でその場を一喝していた。
「まったく、高校生にもなってやることは幼稚園以下か! 噂で人のことをとやかく言うんじゃない! それから、同じクラスの仲間のことを興味本位で話題にするな。はい、次!」
野口の迫力に全員が毒気を抜かれてしまったのは間違いない。その証拠に、それからはスムーズに自己紹介が続いていく。
そして、その場にいた全員がし終わった時、野口は席が一つ空いていることに気が付いていた。
「一條の隣が空いてたな。あそこは……あいつか。おい、緒方をどこかでみなかったか?」
野口の問いかけにクラスメイトはお互いに顔を見合わせている。それでも、教師の言葉には応えないといけないと思ったのだろう。一人がおずおずとした調子で返事をしていた。
「学校には来ていたと思います……入学式の始まる前に、掲示板のあたりで姿を見ましたから」
「はぁ……一応、来てはいるんだ。それなのに、ここにはいない。まったく、あいつは……」
野口が頭を抱えながら本気でぼやいたその時、教室の扉がガラリと開く。それを同時に「遅れました」といいつつも、本気で悪いとは思っていない響きの言葉と一緒に入ってきた姿。その相手を見た時、亜紀はすっかり驚いてしまっていた。
「あ、あなた……」
思わず相手を指差すことしかできない亜紀。そんな彼女の様子にも興味ない、というような顔で相手は教壇に立っている野口にだるそうな調子で問いかけていた。
「先生、俺の席ってどこ?」
「遅れてきたくせにいい態度だな。席順、ここに貼ってるんだが見えないのかな?」
「先生が立ってるから見えないんですけど」
野口の言葉に相手は反発するような言葉しか口にしない。そんな彼の態度に、呆れたような調子で野口が応えていた。
「そうかい、そうかい。じゃあ、一応、教えとくよ。お前の席はそこ。一番前ね」
「げ、なんでそんな席」
「文句を言うな。ついでに、隣は外部入学者だから。隣のよしみもあるし、面倒みてやってくれ」
「面倒くさい……」
「何か言ったか?」
「いいえ、別に」
どこかふてくされたような調子でそう言った相手は指定された席、つまり亜紀の隣へとゆっくり移動してくる。その姿を見た亜紀は朝のことを思い出したのかプイッと横を向く。
その顔はどう見ても『避けています』というようなもの。そんな彼女の姿に相手も何かを思い出したのだろう。クッと喉を鳴らすと、ドシリと椅子に座りながら声をかけてきた。
「お前、朝のヤツだろう? 俺は緒方浩二(オガタコウジ)。お前は?」
「い、一條亜紀よ。朝は大声だしてゴメン」
そう告げるなり、亜紀は横を向いてしまっている。そんな彼女の姿に、浩二の口から漏れる「お前が一條ね……」という呟き。しかし、亜紀はそれに気が付くことはない。
そして、ようやくクラス全員が揃った。そのことに安心感を抱いた野口が、緊張感のない声で号令をかける。
「よし、やっと全員そろったな。それぞれに個性はあるが、クラスメイトだ。お互いに協力し合っていいクラスにするように。それから、今日はこのあたりにしておくから、気を付けて帰れよ」
そう告げた野口が教室を後にする。それと何人かの女子生徒が亜紀のそばに駆け寄ってくるのは、ほとんど同時だった。
「あの……あなた、一條さんよね?」
「あ、はい……そうですけど……」
一体、どうかしたのだろうかと亜紀は目をパチクリさせている。そんな彼女のそばに集まってきた面々は、一斉に質問を投げかけてきた。
「一條ってことは、理事長とは知り合いなのよね」
「外部からっておききしたけれども、何か事情がおありだったの?」
矢継ぎ早に質問を繰り返してくる相手の目はキラキラと輝いている。この場合、どのように返事をすれば一番、穏やかに話がすむんだろう。
そんな思いが亜紀の中にはあるのだが、周囲の迫力におされたのか、なかなか言葉が出てこない。そして、訊ねてきた相手は亜紀の返事を興味津々といった態度で待ち構えている。
「あ、あの……」
「ね、一條さん。教えて下さらない?」
「え、えっと……」
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