「AFFAIR」
たとえ、これが恋だとしても・第Ⅰ部

新しい生活へ 【1】

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新学期早々に知らされた事実は簡単に信じることができない。というより、受け入れるだけの柔軟性がある方がおかしいのではないかと亜紀は思っている。

しかし、ここで忘れてはいけないのは、今の彼女が受験生だということ。つまり、どれほど破天荒なことを知らされたとはいっても、そのことばかりを考えているわけにはいかない。受験戦争という現実を打破するために、亜紀はセッセと勉強に励んでいるといえるのだった。

そして、今日は中学卒業の日。明日には公立高校の受験が控えている。この現実にしんみりとした中にも悲壮感が漂っているようだった。


「亜紀、明日は一緒に行こうね」

「わかってるわよ、由紀子。置いていくなんてこと、絶対にしないでよ」

「当たり前じゃない。一緒に高校行けるように頑張ろう?」

「でも、私、由紀子ほど頭の出来がよくないのよ。ダメだったらどうしよう……」

「今はそんなこと考えない。まずは明日よ。お互いに精一杯やろうね」

「う、うん……」


今の亜紀にとって、受験というものは途方もなく大きい壁のように感じられるのだろう。由紀子に励まされてはいるが、その顔色はどことなく悪い。もっとも、それは公立入試の不安からきているものではない。

そう、明日の受験の前にあった白綾の入学試験。

それには『絶対に落ちてやる』という意気込みを持っていたはずの亜紀。しかし、公立受験という選択肢ができたことで気持ちが変わってしまったのだろう。思わず本気で問題を解き、結果として合格通知が家に送り届けられてきたのだった。

この事実に、亜紀は微妙に落ち込んでいるともいえる。だが、そんな彼女の思いを知っているはずなのに、由紀子はそれを逆撫でするような言葉を口にする。


「それはそうと、白綾ってイケメンいたりした?」


友人の遠慮のない言葉に亜紀はプクッと頬を膨らませている。その顔には、今はこんな話をする時じゃないだろうという非難の色が浮かんでいる。だが、由紀子がそれを気にする様子はない。そのことに気が付いた亜紀は大きくため息をつくことしかできなかった。


「どうして、今、そんな話になるのよ。明日は上洛の入試なのよ」

「そりゃそうだけど、ちょっとは潤いも欲しいじゃない。それに、亜紀ったらあの時の話を教えてくれないじゃない」


まるで教えるのが当然ではないか、と言わんばかりの由紀子の口調。それに対して亜紀は恨めしそうな目を向けることしかできない。

だが、この調子では話すまで解放されないのではないか。そんな思いが亜紀の胸に浮かんでくるのも事実。結局、彼女は押し負けたように口を開くことしかできなかった。


「カッコいい人、いたと思うわよ。でも、関係ないじゃない。もう会うことだってないんだし」

「そんなこと分からないわよ。ひょっとしたらってこと、あるじゃない」


由紀子の言葉にカチンとなってしまったのだろう。亜紀は思わず声を荒げている。


「あのね。私は由紀子と一緒に上洛に行くの。だから、そういうことって考えたくもないわけ。話をしなかったのもそれが理由だって分かってくれないの?」


不満が一杯です、と言わんばかりの表情で告げられる言葉。しかし、それをぶつけられた由紀子はドヤ顔で平然と切り返す。


「あ、そうか。そうよね。上洛には大野君も行くもんね。そりゃ、あんたが白綾のこと話さなくても当然か」

「ど、どうして、そこで彼の名前が出てくるのよ! 私、そんなこと言ってないじゃない。本当に訳が分からない!」


友人の発言の意図が分からない亜紀は、目を白黒させながら叫んでいる。そんな彼女に、由紀子はどこか余裕のある調子で対応するだけ。

そんな感じで迎えた受験日と合格発表。不安で潰されそうになっていた亜紀を救うかのように、二人とも合格。これで4月からは上洛高校に通うのだ、と話に花も咲いている。そんな時、二人は亜紀の家の前にあるものに首を傾げていた。


「ねえ、亜紀。あれって、何?」

「あれって、車? でも、どうしてよ」


そう。そこには普通の家には似合わないような黒塗りの高級車が止まっている。おまけに、どうみても玄関先を占拠しているのだ。このことに、二人は呆然とした表情を浮かべるだけ。


「ね、亜紀。落ち着こうね」


由紀子のそんな声も、今の亜紀には聞こえていない。彼女はどこに持っていけばいいのか分からない怒りに襲われていた。


こんなところに車を止めるなんて、非常識!


そんな彼女の声が辺りに響いていたのだろう。まるでそれに応えるかのように、二人の目の前に一人の男性が現れている。その相手は亜紀の顔を見ると、爽やかな笑顔で言い切っていた。


「お迎えにあがりました、お嬢様」


この言葉に、亜紀は金魚のように口をパクパクさせることしかできない。たしかに、相手は爽やかさを絵にかいたような存在。そして、長身で見た目もイケメンに分類されるような相手であることは間違いない。しかし、そんなことは今の亜紀には関係ない。

なにしろ、彼女の頭の中では『お嬢様』という単語がグルグル渦を巻いている状態だからだ。もっとも、そう呼ばれる理由がないことを彼女自身が一番よく知っている。だからこそ、ここは思いっきり否定するべきところだと思っている。

だが、目の前の相手は亜紀の動揺に気が付く気配がない。いや、気が付いて無視をしているのだろうか。そう思わせるかのように、また同じような言葉を口にしてくる。


「お嬢様、どこかお加減でも悪いのでしょうか?」


この言葉に、亜紀が完全に鳥肌を立てたのは間違いない。この場にこれ以上いることは不可能。

そう判断した彼女は、なんとか隙間をみつけると家の中に飛び込んでいる。もちろん、由紀子がその後に続いているのも間違いない。


「お母さん! 外に変な人がいる!」
「おばさん! あの人って何なの?」


二人が同時に叫んでいるのに、里見家の主婦である夏実は慌てた様子もみせない。その姿に、亜紀はますます困惑の色を深くしている。



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