「AFFAIR」
たとえ、これが恋だとしても・第Ⅰ部

突然の招待状 【6】

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それが蓋を開けてみればまるで違う。由紀子は白綾という選択肢が出てくるとは思ってもいなかったのだ。だからだろう。彼女は大きくため息をつきながら亜紀の顔を突いている。


「ねえ、ひょっとしてあんたってお嬢様だったの?」

「どうして、そんなこと言いだすのよ」


由紀子の問いかける意味が分からない亜紀はそう応えるしかできない。そんな彼女に由紀子は追い打ちをかけるように話しかける。


「だって、白綾でしょ? たしかに、あそこが高校で募集あるのは知ってる。でも、普通の家の子が行く学校じゃないと思うのよね」

「そう言われたら、そうよね……」


由紀子の言葉に、亜紀もぼんやりと相槌を打っている。冬休みの途中で実の母親が『一條美鈴』という人物だと教えられた。だが、彼女がどういう家の人物かまでは知らされていない。

いや、それでも亜紀の中にはある程度の推察はできている。なにしろ、結婚するために駆け落ちしたというのは穏やかではない。

おそらく、母親である美鈴の実家というのは金持ちなのだろう。だからこそ、白綾学園の願書が送られてきた。はっきりと教えられたわけではないが、亜紀はそのことを確信しているといえる。

とはいえ、今の亜紀はそのことを口にするつもりはない。そんな彼女の顔をチョンとつついた由紀子は突然、別の話を始めていた。


「ま、今はそのことを聞いても無理みたいだし。となると、それ以外のこと、話さないとね」

「一体、何よ……」

「そりゃ、こういう時の話って一つじゃない?」


その姿がドヤ顔でないか、と思った亜紀は嫌な予感しかしていない。そんな彼女に由紀子はにんまりと笑いながら言葉を続けている。


「ほら、私たちにすれば勉強も大事だけど、恋愛も同じくらい大事じゃない? 亜紀ったら美人さんなのにそういう話って聞かないんだもの。ついでだし、聞かせてもらってもいいかなって」

「どうして、そういう話に飛んじゃうのよ。っていうより、好きな人なんていないわよ!」


由紀子の言葉に亜紀は思わず叫びだしている。その姿に由紀子はますます楽しそうな表情で亜紀の顔をじっとみてくる。その姿に嫌なものを感じたのか、亜紀は疑問の声を上げている。


「ねえ、由紀子。何か言いたいのかしら?」

「うん。前に何回か夢の中に出てきた人の話、教えてくれたでしょう? 私はてっきり亜紀はその人のこと好きなんじゃないかって思ってたわけ」

「それこそ、意味が分からないじゃない。それって夢の話じゃない。現実にあるわけじゃないし、もしそうだとしても相手は年上よ。どうして、そういう話になっちゃうのかな」


由紀子の言葉に亜紀は顔を微かに赤くしながら反論している。たしかに今までは夢だと思っていた。しかし、あの夢は現実にあったことなのかもしれない。そう思うことで、彼女の中の意識は微妙に変化している。

実際に、あの相手がいるのではないか。自分はかつて出会っているのではないか。そう思うからこそ、由紀子の指摘に焦りの色が出てきてしまう。

そして、これ以上この場にいると何を言われるか分かったものではない。そう思った亜紀はカバンを持つとツンとした声を出していた。


「今日は帰る。これ以上、由紀子と話していたら何を言われるか分からないもの」

「え~、逃げるの? それって、認めてるってことになるんじゃないの?」

「そんなことない。とにかく、帰る。それに、受験も目の前じゃない。ちゃんと勉強しないと志望校に行けないじゃない」

「それもそうか。あ、大野君も帰るの?」


カバンを持った亜紀の背後に見えるクラスメイトに由紀子が気軽に声をかける。その相手の名前を耳にした瞬間、亜紀は顔を真っ赤にしてその場から逃げ出そうとする。そんな彼女の様子に気がついていないのか、声をかけられた相手はのんびりとした調子で返事をする。


「あ、帰るよ。それはそうと里見と佐藤ってマジで仲がいいんだな。見ていて妬いてるヤツも多いんじゃないか?」

「そうかな? でも、それって大野君がいうの?」


ニヤリと笑いながら由紀子がそんな言葉を口にする。それに対して声をかけられた方も平然とした顔で応えている。


「何か問題ある? それより、里見は帰るんだ。で、佐藤はどうするの?」

「帰るわよ。でも、今日は亜紀が一緒に帰ってくれないかな?」

「かもね。さっきの話、聞こえてたけどかなり里見のこと弄ってたじゃないか」

「あら、これは当然の権利よ。違う?」


その声に亜紀は完全に拗ねた様子で「帰る」と一言告げている。そんな彼女の腕を掴んだ大野が早口で声をかけていた。


「じゃあ、一緒に帰ろうよ。話したいこともあるし」


その声に由紀子はますます楽しそうな表情を浮かべている。もっとも、亜紀にとっては友人の態度の意味が分からないのだろう。それでも、断る理由がないと思ったのかコクリと頷いている。


「よかった。じゃあ、佐藤、里見は借りるよ。また、明日な」

「うん。大野君も頑張って」


そう言うと由紀子は手をヒラヒラと振って二人を見送っている。その姿に亜紀はまた顔が赤くなるのを抑えることができない。そして、彼女と並んで歩いている大野も黙っているだけ。

そんな中、二人が別れる交差点に近付いている。その時、大野はようやく口を開いていた。


「なあ、里見。変なこときくんだけどさ。里見って好きなヤツいるの?」


突然、投げかけられた直球での問いかけに亜紀は返事ができない。そのまま二人の間には気まずい空気が流れ始めている。しかし、それを破ったのも彼女に質問を投げかけた大野だった。


「ゴメン。急にこんなこときいたら驚くよな。でもさ、ちょっと気になったんだよな」

「どうして? 別に好きな人もいないし、告白されているわけでもないけど」


大野の質問は間違いなく亜紀のことを意識してのもの。しかし、問いかけられた方にその意識がない。いや、顔を赤くしている時点で恋愛感情がないとは言い切れないのだろうが、彼女自身がそう思っていない。

だからこそ、何事もないような顔で返事をする。そのあたりの空気を読みとった大野はうなだれることしかできなかった。


「もういいよ。なんだか、今の里見にこんな話しても無駄なような気がしてきた」

「何が言いたかったの? 変な大野君。あ、私の家、こっちだから。また明日ね」


大野の言葉の意味が分かっていない亜紀はそう告げると小走りに走っていく。そんな彼女の後姿を見送った大野の口からは抑えきれないため息が漏れていた。

いつになったら、ちゃんと彼女に気持ちを伝えることができるのだろう。分かってほしい人以外には分かっているのに。そう思う彼のため息はどんどんと深くなるしかないようだった。






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