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泡沫の虹

熱 【2】

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そう言いたげな顔で腰を浮かしかける嘉兵衛を、清兵衛は穏やかな調子で引きとめていた。


「心配することはない。そのために、弥平次を迎えにやったのだからな」


清兵衛の声に、嘉兵衛は言葉を失っている。今まで、そういう時に糸を迎えに行く役目は自分だったのではないか。そう言いたげな光がその目には浮かんでいる。


「何か不満でもあるのかな? 番頭であるお前をいつも迎えに行かせていては、周りに示しがつかないだろう。お前がいないと店は回らないのだぞ」


その声は、清兵衛が嘉兵衛のことを心から信頼している、ということを示している。だが、嘉兵衛にすれば、外で糸と二人っきりになれる方が大事なのだ。糸を自分に溺れさせたいと思っている彼にとって、店のことよりも糸の方が大事。

しかし、そのことを口にすることができないことを分かっている彼は、清兵衛の言葉に納得したような顔をする。


「旦那さまがそうおっしゃるのでしたら。しかし、急に暗くなりましたね。雨にならなければいいのですが」


その声に、清兵衛も思わず外を確かめるように眺めている。たしかに、外は急に暗くなり、いつ、雨が降ってきてもおかしくない。そんな空模様を見ている彼の目には、早く糸が帰ってくればいいのに、というような色しか浮かんでいなかった。

そして、井筒屋の主人と番頭が互いに思いのズレを発生させながら話を続けている時。弥平次は主人の言葉に従って、糸を迎えに行く足を急がせていた。

今日も糸はお茶の師匠の家に出かけている。いつもなら、下女の菊が一緒なのだが、この日は途中で気分が悪くなったといって、菊だけが先に戻ってきていたのだ。

どうして、糸も一緒に戻らせなかったのだ、という清兵衛の叱責に、菊は震えあがるしかない。もっとも、体調の悪い彼女をいくら責めても駄目だ、ということを清兵衛もわかっているのか、あまり深く追求しようとはしない。それよりも、糸が一人で帰ってくる道の方を心配した清兵衛は、店の若い衆を迎えにやることにしていたのだ。

そして、清兵衛の思いが、帰宅の道が安全であるように、というのならば、少しでも早くお茶の師匠の家に行かないといけない。そう思った弥平次は、小走りで教えられた家へと足を向ける。

その彼の容姿は、人目を引くのは間違いないもの。すらりとした姿の彼が息を切らして走っている姿に、道を歩く女たちは思わず見とれている。そんな女たちの視線を背に受けながら、弥平次は教えられた家の扉を叩いていた。


「どちらさまでしょうか」


穏やかな女の声が家の中から返ってくる。それを耳にした弥平次は、走ったことで切らした息を整えながら返事をしていた。


「井筒屋でございます。お嬢さまをお迎えにまいりました」


その声にパタパタという軽い足音がすると、がらりと引き戸が開けられる。引き戸を開けたのはここの内弟子でもある娘だが、戸口に立っていた弥平次を見た途端、頬を色づいた紅葉のように染めていた。


「あ、わざわざご苦労様です。井筒屋のお嬢さんは、お師匠さんと話をされています。もうすぐ、お話しも終わりますので、よろしければこちらでお待ちください」


そう言いながら、娘は弥平次を家の中に案内しようとする。それに対して弥平次は、柔らかい微笑を浮かべながらも、はっきりとした口調で断りをいれていた。


「いえ、それはできません。わたしはお嬢さまのお迎えにきたのですから。お話しが終わるまで、ここで待たせていただきます」

「でも、お話しは長くなるかもしれません。それまで、私がお相手をするようにと師匠からもいいつかっております」


内弟子の娘は、なんとか弥平次を家に上げようと必死になっている。それが師匠から言われただけという風には感じられない、と弥平次は思っている。この場は、逆らわずに言葉に従った方がいいか、と彼が思い始めた時、家の奥から別の足音と話声が聞こえてきていた。


「ずいぶんと長く、お引き留めいたしました。それでは、井筒屋さんにもよろしくお伝えください」

「はい。おとっつぁんも何かあれば、いつでも力になると言っております。師匠がお探しの茶器のことは、私からもお願いしてみます」

「そうしていただけると、本当に助かります。でも、井筒屋さんにはいつも、無理ばかりお願いしていますのに、本当によろしいのですか?」


ちょっと不安そうなその声は、お茶の師匠である登与のもの。その師匠の不安を払うように、糸の明るい声が応えている。


「大丈夫に決まっているじゃないですか。それと、今日は菊のことで、逆にご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


そう言いながら、糸は大きく頭を下げている。そんな彼女に登与は穏やかな調子で応えていた。


「そんなに気にしないでもいいのよ。あら、お迎えが来ているのではないかしら。ま、今日はいつもの方じゃないようね」


戸口で内弟子の娘と押し問答をしている弥平次の姿に目をやった登与は、驚いたような声をあげている。今まで、井筒屋から糸を迎えに来るのは番頭である嘉兵衛、と決まっている部分があったからだ。

しかし、今日の相手は彼よりも若いように見える。一体、誰なのだろうと登与が首を傾げた時、糸も相手の姿にポカンとした表情を浮かべていた。


「弥平次じゃないの。どうして、嘉兵衛じゃないの?」


その声に、弥平次は穏やかに微笑むだけ。その姿がまるで絵にでてくる役者のようだと思った糸は、耳まで真っ赤になってしまう。


「お嬢さま、お加減でもお悪いのですか?」


弥平次の問いかけに、糸はぶんぶんと頭を振ることしかできない。そんな彼女に、弥平次は態度を崩すことなく、スッと手を差し出していた。


「それでは、お店に戻りましょう。なんだか雨になりそうですから」


その声に、糸は慌てて登与に暇乞いをすると弥平次に連れられて外に出る。空を見上げてみれば、たしかに今にも雨が降り出しそう。そう思った糸は、弥平次を急かすように道を急いでいた。


「ねえ、弥平次」

「何でしょう、お嬢さま」


帰り道を急ぐ中ではあるが、思わず糸は弥平次に声をかける。その彼女の声に、弥平次は首を傾げながらもこたえていた。そんな彼に、糸は口元に微笑みを浮かべながら言葉を続けている。


「初めて弥平次にあった日も、こんな感じだったと思って」

「そうでしたか?」


糸の言葉に、弥平次は曖昧に応えるだけ。そんな彼に、糸はちょっと口を尖らせている。


「そうよ。弥平次は覚えていないの? 私はちゃんと、弥平次に会った日のことを覚えているのに」


糸のその声が、どこか拗ねたような感じがする、と弥平次は思っている。しかし、彼はそのことを口にすることなく、糸の手を握ると道を急ぐ。彼のその行動に、糸は顔をホオズキのように真っ赤にすることしかできなかった。


「弥平次……」


囁くような声で彼の名前を呼ぶが、それに応える声はない。そんな時、ぽつりと雨粒が落ちると、一気にあたりは真っ暗になる。


「お嬢さま、濡れてしまいます。此方へ早く」


そう言いながら、弥平次は糸の手をますます強く握ると、雨宿りのできる軒先を目指し走りだす。その彼の握る手が熱をもっているように感じる糸だが、彼の手を振り払うことができない。

やがて、二人が肩を寄せ合うようにできる軒先を見つけた弥平次は、糸が濡れないようにと庇う。彼のそんな態度に、糸は大きく胸が鳴るのを押さえることができない。


「お嬢さま、寒くないですか?」


耳元で弥平次が囁きかけてくる。そのことに、思わず体をビクンとさせた糸の様子に、弥平次は心配そうな声をかけてきた。


「寒いのですか? 濡れてしまったのですし、仕方がないですね。では、失礼いたします」


そう言うなり、弥平次はしっかりと糸の体を抱きしめる。その腕の力が強いことに驚いた糸は、自由になろうともがくしかできない。その彼女の耳元で、弥平次はそっと囁きかけていた。


「このようなことをするのが身の程知らずだとは、承知しております。でも、今だけこのようにさせてください。お嬢さまが濡れてしまわれるのが我慢できませんから」

「弥平次……」


彼の言葉に、思わず糸はその顔をじっと見つめる。そこに浮かんでいる表情が真剣なものだということに、糸は胸を締め付けられそうな思いがしていた。


「弥平次……ええ、このままでいいわ。私、本当は初めて会ったときからあなたのことが……」


糸がそう言いかけた時、彼女の唇に触れてくるものがある。それが何か分かった時、糸は顔をますます赤くすることしかできないが、嫌だと思う気持ちはない。

彼女は自分を抱く弥平次の背中にそっと腕をまわし、彼の口付けに応えている。その彼女に弥平次はそっと囁きかけていた。


「お嬢さま、そのようなことは女から口になさってはいけません。こういうことは、男から言うものですよ。ええ、わたしもお嬢さまのことを初めからお慕いしておりました」


その声と同時に、また唇が重ねられる。降りしきる雨を避ける軒先で、二人は互いの思いを確かめあい、熱い口付けを交わしていた。



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