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「DIVA」
呪歌と姫君

午後のお茶会 【3】

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「ねえ、アリオン。私も竪琴って弾けるのかしら?」

「アフル様がですか?」


突然、アフルの口からそのような言葉が出たことに、アリオンは驚いたような表情を浮かべている。そして、彼女にそのようなことをさせてもいいのかと伺いを立てるような顔で、フェビアンとシュゼットの顔を見ていた。

その表情はそれまで自信に満ちたものとは違う、どこかおどおどとしたもの。それに気がついたフェビアンは鷹揚に構えると、ゆったりとした口調でアリオンに応えていた。


「アリオン、すまないが相手をしてやってくれないか。こういうことができるのも、嗜(たしな)みの一つになるだろうからな」


貴族の令嬢が音楽や刺繍をするのは一種の教養になる。

フェビアンの言葉からそのような意図を汲み取ったアリオンは軽く頷くと、アフルの手に竪琴を持たせていた。まだ、小さい彼女の手にそれは大きいようにみえる。それでも、少しくらいなら音を出すことができるはずだとアリオンは考えたのだ。


「では、左手でしっかり持ってください。そして、右手はこちらに」

「えっと……こうでいいのかしら?」


アフルはなんとかアリオンの言葉に従おうとする。しかし、初めてのことがなかなかうまくできるはずもない。それでも、彼女の中にある強い思いのためか、彼女の指は竪琴の弦を弾く。

アリオンの奏でる音とはまた違う素朴な音が庭の中に流れる。そのことにアフルは目を輝かせると、何度も同じことを繰り返していた。


「アフル、あまり根を詰めないようにね」


すっかり夢中になっている娘の様子を心配したのか、シュゼットがそう声をかける。しかし、アフルはその声も耳に入っていないかのように竪琴とたわむれている。

その姿からは、珍しい玩具を手に入れたという喜びが感じられる。この調子では、人の言葉など耳に入っていないのだろうと思ったシュゼットは、大きくため息をついていた。


「シュゼット、どうしたんだい」


妻の様子に何か気になることでもあったのか、フェビアンがそっと声をかける。その姿に彼女は小さく頭を振ると、「大したことはありませんわ」と囁き返していた。

しかし、そうはいっても彼女の様子が普通ではないことをフェビアンは感じたのだろう。アフルは竪琴に夢中になり、アリオンが彼女の相手に必死になっている。今なら二人だけの話もできると思ったフェビアンはシュゼットの顔を正面からみつめている。


「何を気にしている。アフルが楽器をできるようになるのはいいことだ。まだ早いと思ったが、いつかは嗜みとして身につけさせなくてはならないことだったのだから」

「それはそうなのですが……」


そう呟くシュゼットの顔色がどことなく悪いことにフェビアンは眉をひそめている。何をそんなに気にしているのかというような顔で彼はシュゼットに問いかけていた。


「どうしたんだい。いつものお前らしくもない」

「そのようなことはありませんわ」


夫の問いかけにあくまでも平静を保つようにして応えているシュゼットだが、その手が微かに震えていることをフェビアンは見逃していない。だが、今の彼女に何を訊いても返事がないのもわかっているのか、それ以上の問いかけがなされることはない。


「わかったよ。お前がそういうのなら、そういうことにしておこう。しかし、あの詩人は家庭教師の才もあるのか? アフルがすっかり懐いているな」

「本当にそうですわね。ずいぶんと、アフルが気に入っているようですわね」


フェビアンの言葉にそう応えるシュゼットだが、心ここにあらず、という雰囲気がしないでもない。その時、フェビアンはシュゼットが気にしていることにようやく思い当っていた。

たしかに、今のアフルを見ているとその不安が膨らんでくるのは間違いない。そう思った彼は静かな口調でシュゼットに問いかけていた。


「お前がそんなに気にしているのは『呪歌』のせいだな」

「あなた……」


フェビアンの口にした『呪歌』という言葉に体を震わせたシュゼットだが、その表情は彼の言葉を否定するものではない。そんなシュゼットにフェビアンは静かに声をかけていた。


「お前が気にするのはわかる。だが、貴族の娘として生まれた以上、こういう嗜みの一つも持たないのが奇異の目でみられるのもわかっているだろう」

「それは、よくわかっております」


フェビアンの声に応えるシュゼットの声は、今にも消え入りそうなもの。だが、そんな妻の声を気にすることなく、フェビアンは言葉を続けていた。


「ましてや、アフルは我が家の跡取りだ。何の趣味も持たぬ無粋な娘と噂されるわけにはいかぬ。お前が気にするのはわかっている。だが、これは避けては通れぬことだ」


フェビアンの言葉にシュゼットは唇を噛み、下を向いてしまっている。夫の言葉に応えることはないが、その肩が小刻みに揺れている姿は、彼女がこのことを受け入れたくないということを表している。

だが、そうすることができないということもシュゼットは理解している。しばらく下を向いていた彼女がようやく顔をあげた時、そこには諦めにも似た表情が浮かんでいた。


「あなたのおっしゃりたいことはよくわかります。あの子のためには、こうしなければいけないのだということも。でも、もし、あの力があの子にあればどうなりますか?」


シュゼットのその声に、フェビアンはアフルとアリオンの様子を見ながら静かに応えている。その声が届くのはシュゼットにだけ。そして、静かな中にもそれは力強さを持っている。


「だからこそ、アリオンをアフルの家庭教師にしようと思う」

「どうしてですの?」


夫の言葉の意味がわからないシュゼットは、首を傾げながらそう応えることしかできない。その彼女に、フェビアンはゆっくりとした口調で返事をしていた。


「もし、その兆候があるのなら、吟遊詩人であるアリオンならわかるだろう。そして、家庭教師として雇えば、ギルドに報告するよりも先に我々に報告するのが当然ではないかい?」

「そう言われれば、そうですわね……」


フェビアンの言葉に、シュゼットはようやく安心したような表情になっている。彼女の視線は、初めて触る竪琴に夢中になっている娘の上から離れることがない。


「あなたのおっしゃるとおりですわね。アリオンは吟遊詩人だから、あの力のことはわかると思いますわ。そして、そうなればギルドの上層部に報告するのは彼の役目。でも、私たちが彼の雇い主になれば、その危険は避けられますわね」

「わかってくれたね。そして、貴族の娘としての嗜みもアフルは身につけないといけない。たしかにあの子はまだ10歳だ。しかし、我が家の唯一の子供として認識されている。その意味もわかっているね」


その声にシュゼットは微かに頷くことしかできない。そんな妻をその場に残したフェビアンは、ゆったりとした足取りでアフルとアリオンに近寄っていた。

彼の顔からは、先ほどまでシュゼットと交わされていた話の影はどこにも見受けられない。彼はすこぶる機嫌のいい表情で、アリオンに声をかけていた。


「アリオン、今日は本当に楽しませてもらった。また、君を呼んでもかまわないかな?」


その声にアフルはすっかり喜んだ表情を浮かべ、アリオンは驚いたような顔になっている。対照的な二人を見たフェビアンは、穏やかな微笑みをその顔に浮かべていた。

ザフィーラ家へと呼ばれてから数日がたったある日。アリオンは、またクロードの呼び出しを受けていた。

もっとも、先の呼び出しから時間がたっていないということもあったのか、彼の態度には先日のようにおどおどとしたものは感じられない。それでも、何を言われるのかというような表情を浮かべながら、彼はクロードの部屋の扉を叩いていた。


「クロード様、アリオンです。入ります」


前もこう言って部屋に入ったな。そんなことを思ったアリオンは、前回と同じように部屋の中央に陣取っているクロードをじっと見ている。その姿が前回とは違って落ち着いているということに気がついたクロードは、穏やかな微笑を浮かべながらアリオンの姿を見ていた。


「この前はよくやってくれたな。伯爵様も大層、お喜びのようだった」

「本当ですか?」


クロードの言葉はアリオンには何よりも嬉しいもの。そのために、彼の表情は一気に明るいものになる。その彼に、クロードは驚くようなことを告げていた。


「それはそうと、ザフィーラ家がお前を家庭教師として雇いたいといってきているんだ。断る理由はないからな。了解したという返事をこちらからしておいた」

「クロード様、どうして僕の意思もきかずに、そういう話になるんですか」


クロードの言葉にアリオンは目を白黒させて反論するが、クロードは気にする様子もなく言葉を続けている。


「お前のためになると思って、承知した。吟遊詩人というのはある意味で根のない浮き草稼業だ。まだ、若いお前がその世界にどっぷりと浸ることもないだろう」

「クロード様……」


クロードの言葉から彼がアリオンのことを考えて、このことを承知したのだとわかったのだろう。アリオンは感極まった表情でクロードの顔をみている。


「わかりました。それでは、できる限りのことをさせてもらいます。でも、そうなったら吟遊詩人として歌ったりはできないんでしょうか?」

「そんなことはない。祭りみたいに人手がほしい時はお前にも声をかける。そのことは伯爵様も承知されているからな」


その声に頷いたアリオンは、クロードの部屋から出て行っている。その時、彼は旅支度をしたランスの姿をみつけていた。


「ランス、どこかへ行くのか?」

「ああ、ギルドから呪歌歌いを探せと言われてな」


ランスの声がどこか遣る瀬無いものだと感じたアリオンは、ちょっと首を傾げている。その彼にランスは苦笑を浮かべながら言葉を続けていた。


「そんな顔をするなって。俺がそう命じられるのは当然だからな」

「そうなのか?」

「ああ。俺の家は呪歌歌いだからな。そのせいでギルドは俺に呪歌歌いを探せって言うんだよ。それはそうと、お前は貴族の家庭教師になったんだってな。頑張るんだぞ」


その声に、アリオンは大きく頷く。この日、二人はお互いに別の道を歩き始めたのだった。






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