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「DIVA」
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呪歌と姫君 【2】

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このところ、吟遊詩人のギルドと主の間が険悪になっている。そのことを彼らは敏感に感じていた。そして、それがアフルを巡るものであることにも、彼らは気が付いていたのだ。もっとも、それはアフルの竪琴の教師であるアリオンから、それとなく聞いていたからかもしれない。

しかし、誰もそのことでアフルを疎ましくなど思っていない。ギルドの申し入れを受け入れれば、彼女が屋敷からいなくなる。その方が、彼らにとっては我慢できないこと。屈託のない笑顔を浮かべるアフルは、両親からも使用人からも愛される存在だったのだ。


「では、お嬢様はもうお休みになられますか。旦那さまには、わたしからそのように申しておきましょう」


ジェミニ伯夫妻が夜会から戻ってくる時間。それは、夜半も大きく回った頃になるのは間違いない。そんな遅い時間まで、子供のアフルを起こしておくつもりがステラにあるはずもない。彼女は、アフル自身が『もう休む』と言ったことに安心したような表情を浮かべていた。


「でも、ばあや。お父様やお母様に、アフルは待っているつもりだったって、言っておいてよ」

「わかっておりますよ。でも、もう時間も遅いです。お休みになられるのでしたら、早くお部屋に行かれないと」


その声に、アフルは素直に頷いている。彼女は、竪琴を抱えると、自分の部屋へと引き取っているのだった。そんな彼女の姿を見送った使用人の一人が、恐る恐る口を開いている。


「あの……このところ、ギルドの長様がおみえになっているのは、お嬢様に関係することでしょうか」

「ええ、そうよ。お嬢様は、ギルドが欲しくて仕方のない力をお持ちのようなの」

「じゃあ、お嬢様はどうなってしまわれるのですか」


不安げな表情でそう言ってくるメイド。それは、屋敷の使用人たち全員の思いだったろう。そんなメイドの声に、その場にいた若い男が反応している。彼がアフルの師であるアリオン。彼は吟遊詩人ということもあり、ギルド内部のことも、伯爵家のことも知っている存在だった。


「心配する必要はない。伯爵がギルドの言うことを聞くはずがない。それに、ギルドもアフルに力があることをハッキリと認識しているわけじゃない。そして、なによりもこの家は国王陛下の信頼が厚い。ギルドも無茶はしてこないよ」

「でも、あまりにも頻繁です。心配にもなります」

「それは、それだけ旦那様が拒否なさっているからです。ギルドにすれば簡単に諦められないのでしょう。そのことはアリオンからもきいていますからね。あなた方が気にしているのはわかるわ。でも、心配しないように」


アリオンとステラの言葉。それを聞いた若い者たちは、ようやく安心したようだった。彼らは、アフルが部屋に引き取ったこともあり、自分たちの仕事を片づけていた。

そんな中、アフルは部屋の中で困ったような顔をしていた。

今夜、両親が遅いということは彼女も知っていた。だから、起きて待っていられるようにと内緒で昼寝を決め込んでいたのだ。しかし、自分がいることでメイドたちの仕事に差し障りがあるのでは。そう思った彼女は、それほど眠くもないのに、寝室に引き上げたのだ。だが、昼寝の効果はてきめん。アフルはベッドに入りながらも、なかなか訪れることのない睡魔に苛立ちを感じていた。


「どうしよう……ちっとも、眠れないわ……お父様やお母様は、帰ってこられたのかしら」


もしそうならば、両親の顔が見たい。

そう思ったアフルは、寝室からそっと抜け出していた。階下を見ると、ほのかに明るいように感じられる。この様子なら、両親が帰って来ているのだろう。そう思った彼女は、安心したように階段を降りて行っていた。


「あら、ばあやたちの声がしないわ」


両親が帰って来ているならば、必ず出迎えに出る者がいるはず。しかし、そんな声が聞こえてこない。そのことが嫌な予感となってアフルの胸を締め付ける。それでも、彼女は階段を降りる足を止めていない。やがて、彼女は屋敷の入り口ホールに続く扉をそっと開けているのだった。


「う、うそ……」


扉を開いた先に広がっていた光景。

それは、アフルには信じることのできないものだった。大理石の床が血の海となっている。そして、そこに倒れている人影。


「お父様、お母様……」


アフルの口から、小さな悲鳴が上がっている。血溜まりの中に倒れていたのは、彼女が大好きな両親。思わず、そのそばに駆け寄ろうとしたアフル。その彼女の前に、見たこともない男が姿を現していた。


「あなたは……」


その男は、血に濡れたナイフを持っている。彼が両親をこんな目にあわせた。そのことは間違いがない。思わず震えながらも、アフルは相手をキッと睨んでいる。その彼女に、男はニヤリと下卑た笑いを見せていた。


「こんな可愛い子供がいたのか。思ってもいなかったな」


そう言うなり、男はアフルに近寄ってくる。その視線に、彼女は恐ろしさしか感じないのだろう。相手から逃げるように後退っている。


「いやよ……こっちに来ないでよ……」


震えながらそう呟かれる声。そんな中、彼女の中で何かがグイっと首をもたげたようだった。恐怖に震えながら、男から目を離すことができないアフル。その彼女の口から、声にならぬ声、音にならぬ音が響いていたのだった。


その響きは壁を伝い、窓を揺らす。


音にならぬ音だというのに、それは屋敷中に響き渡る。


「お、お前……呪歌うたいか……」


苦悶の表情を浮かべながら、男はアフルを見据えている。しかし、男の声がアフルの耳に入っている様子はない。彼女の視線は、血塗れで倒れている両親から放されることがない。

アフルはただ、歌い続けている。それが恐怖に突き動かされたものである。そのことを彼女自身がわかっていない。そして、その声は屋敷にいるすべての人々を呼び集めている。


「お、お嬢様……やめてください……くるしい、です……」


可愛がってくれる人々の声。それすらもアフルの耳には届かない。彼女は何かに操られているように、ただ、音を奏で続けている。


「アフル……もう、いい。やめるんだ……」


そんな声を同時に、彼女を抱きしめる力強い腕。その力に、アフルはようやく我に返りつつある。


「アリオン……」


力なく呟かれるその声。そんな彼女にアリオンは何も言わない。彼女の視界に両親の姿が入らないように包み込んでいる。


「アリオン……わたし……」


一体、自分は何をしていたのだろう。


そんな疑問がアフルの胸の内に浮かんでいる。しかし、その答えを彼女が手に入れることはない。アフルは、自分を抱きしめるアリオンの腕の中に、崩れるように倒れこんでいるのだった。



◇◆◇◆◇



フィレスに、かつてあったことを淡々と語るアフル。

そんな彼女の言葉に、フィレスは呆然としてしまっていた。どのような言葉をアフルにかければいいのだろう。そんな混乱したような表情だけが、フィレスの顔に浮かんでいる。

しかし、アフルはそんなフィレスの姿を気にしていない。彼女は、静かに語り続けるだけ。


「あの時、私は自分の力も知らぬままに呪歌を紡いでしまいました。それが、大切な人たちも傷つけるのだということもわからずに。ですから、私はその償いをしなければならないのです」


心なしか震える声でそう告げるアフル。フィレスはそんな彼女の姿をじっと見るしかできないようでもある。しかし、そうであっても、何かを言わなくてはいけない。

そんな、どこか切迫した思いがフィレスにはある。しかし、アフルから呪歌うたいだときかされた衝撃。それが簡単に消えるものではないのも事実。フィレスが躊躇うのも当然のことだった。


「アフル……どう言っていいのかわからないのだけど……」


それは、いつもの毅然とした態度のフィレスではない。その姿に、呪歌うたいだと告白したのは間違っていたのだろうか。そんな思いからか、アフルは項垂れてしまっていた。

そんな彼女の手をフィレスはしっかりと握っている。そして、アフルの顔を正面から見つめていた。


「アフル、たしかに呪歌は怖い。それを否定することは、できないわ」


フィレスの言葉に、アフルはピクリと身体を震わせている。フィレスの言葉は、呪歌うたいの自分を否定している。そのように彼女は感じたのだろう。しかし、そんなアフルを励ますように、フィレスは話し続けている。


「でも、それだけじゃないでしょう。あなたの歌には、声には、人を幸せにする力もあるのよ」


フィレスの言葉は、アフルには思いもよらぬものだったのだろう。それを証明するかのように、彼女は口をパクパクさせている。そんなアフルを見ているフィレスのまなざしは温かく、優しいものであった。


「そうでしょう。あなたの歌うファクリエル讃歌は、他の誰のものよりも心に染み入るわ。だから、あなたは自分を卑下する必要はない。たしかに、ビックリはしたわ。でも、それは当り前よね。誰だって、知り合いに呪歌うたいがいるなんて、思いたくないもの」

「院長様……」


その言葉は、フィレスなりの優しさと思いやり。それを感じたアフルは、思わず目を潤ませ、声を詰まらせていた。そんな彼女をみつめるフィレスのまなざしは、娘を見守る母親のようなもの。


「あなたは、そのことを気にしすぎる必要はないの。シュゼットもそう言うはずよ」


フィレスの口から、今は亡き母の名が出た。そのことに、アフルは思わず目を丸くしている。この人は、一体、どこまで知っているのか。そんな疑問の色がその顔には浮かんでいる。


「院長様、どうしてその名を。私、お話したことがございましたか」

「いいえ、きいていない。でも、知っているのよ」


フィレスのそんな言葉に、ますます訳が分からなくなっていくアフル。彼女はポカンとした表情で、じっとフィレスの顔を見ている。そんなアフルの姿に、フィレスはクスクスと笑っていた。


「言いたくないことを言わせてしまったわね。そのお詫びに教えてあげる」


その口調と態度。そこからは、修道院を束ねる院長という、厳粛な様子は感じられない。アフルは困惑の度合いだけが強くなっているのを感じているのだった。


「あなたのお母様のシュゼットとは、昔からの親友だったの。私はこうやって修道女になったから、会う機会は限られていたわ。だから、シュゼットがあんなことになったのは本当に悲しかったの。そして、あなたが修道女になりたいといった。それを知った時は、本当に辛かった」

「院長様……」

「だから、私はあなたを正式な修道女にしないの。見習いのままなら、いつでも俗世に戻れるもの。そして、あなたには家を再興させる、という役目があるはずだわ。そのこと、わかっているのでしょう」


アフルを諭すようなフィレスの言葉。彼女はそれを黙って聞いているだけ。その胸にどんな思いがあるのか。それは誰にもわからない。

いや、アフル自身にもわからないのだろう。それでも、彼女はまっすぐにフィレスをみている。そして、その思いの一部を口にしていた。


「院長様、おっしゃりたいことはわかります。でも、もうしばらくここにいさせてください。私は自分が許せるようになるまでは、院長様が望まれることはできないと思います」


キッパリと言い切られたその言葉。そこには、先ほどまでの揺らぐような様子は感じられない。だからこそ、それがアフルの正直な気持ちだとフィレスにはわかっている。

彼女が決めたことがそれならば、それでいい。自分は、アフルが感じる罪悪感を少しずつ拭ってやればいい。フィレスはそのように考えているのだった。


「それでいいのよ。何も今すぐに行動しろ。そんな風には言っていないわ。これは、あなたが自分で決めることだから。でも、その時が来た時。その時がいつであってもかまわない。あなたは、ここから自由になれるのよ」


フィレスのその言葉が合図になったのだろうか。

その場にいた動物たちは、夢から覚めたようにあちらこちらへと散っている。動物たちは森の中に戻り、小鳥たちは大空へと羽ばたいていく。

それは、呪縛からの解放、という言葉が相応しいのだろう。

それをじっと見ていたアフル。彼女は、自分にもそんな時がくるのだろうか。そんなことを自問自答しているようだった。



~Fin~






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