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「DIVA」
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呪歌と姫君 【1】

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今の彼女の生活。それを人は『不幸』というのだろう。しかし、それは決め付けられることではない。なぜなら、幸か不幸かを決めるのは他人ではない。それは、あくまでも本人が決めること。

たしかに、かつての彼女は絹とレースで彩られていた。しかし、今の彼女が纏うもの。それは、絹でもレースでもない。飾りも何もない、質素で実用的な修道服。


「アフル。どうして、そんな道を選んだの」


まるで、彼女が選んだことを否定するような声。しかし、それにアフルが応えることはない。彼女はただ、静かに微笑んでいるだけ。


そして――


その日もいつもと同じように、沢山の洗濯物を抱えて歩く、アフルの姿があった。そんな彼女をみつけた修道院の女院長であるフィレス。彼女は洗濯物を抱えてフラフラしているアフルに、温かな声を掛けているのだった。


「アフル、いつもご苦労様」

「院長様、そんなことはありません。これは、私の仕事ですもの」


抱えた洗濯物の横から顔を出し、返事をするアフル。その髪が光に透け、青い瞳は穏やかな光を浮かべている。人目を引くことが間違いないその容貌。しかし、修道服に身を包む者に、そのようなことは関係ない。


「あ、院長様。ちょうどよかったです」


どうやら、フィレスに言いたいことがあったのだろう。声を掛けられたことがチャンス。そう言いたげな表情をアフルは浮かべている。そして、持っていた洗濯物を足下に置くと、まっすぐにフィレスの顔を見ているのだった。


「院長様、いつになったら私を正式な修道女にしてくださるのですか」


アフルの問い掛けにフィレスは返事をしようとはしない。そんな彼女に、アフルは再度、詰め寄っていた。


「私がここに来てから、2年が経とうとしています。そして、同じ時に見習いとして入った仲間は、みんな修道女になっています。それなのに、どうして私はまだ見習いなのですか」

「アフル、それならば私からも訊くわ。まだ、気持ちは変わらないの」


フィレスの言葉に隠された思い。それをアフルは敏感に感じ取っている。一瞬、うつむきかけたアフルだが、次の瞬間にはフィレスの顔をじっと見つめていた。


「院長様、お言葉はありがたいです。しかし、私の気持ちは変わりません。それとも、私がここにいることが、院長様方のご迷惑となるのでしょうか」

「いいえ、そんなことはないわ。でも、本来であれば、あなたはここにいるべきではない。そのことも、わかっているのでしょう」

「……わかっております……でも……」


フィレスの言葉に、アフルは口籠っている。彼女の言いたいことはわかっている。しかし、アフル自身がどうしても、それを承知することができない。


「院長様、私はここにいたいです。ここで、修道女として生きていきたいです。それは、許されないことでしょうか」


懇願するようなアフルの声。それを耳にしたフィレスは、慈愛の表情ともいえるものを浮かべている。


「あなたがここにいる。そのことは、私が認めているわ。だから、気にする必要はないの。でも、あなたには他にやることがあるはずだわ」


フィレスのその言葉に、アフルは思わず首を垂れている。どう返事をすればいいのだろう、と悩むような表情。そんな彼女をみたフィレスは、気分を変えるかのように別のことを話していた。


「それはそうと、またファクリエル様に捧げる讃歌をお願いしてもいいかしら」

「あ、はい。それはわかっております」

「よかったわ。あなたの讃歌はいつ聴いても気持ちがいいもの。ファクリエル様も喜んでいらっしゃるわ」


フィレスが口にした『ファクリエル』という名。それは、この国ファクリスで信仰されている女神の名前。

彼女は国を護り、王家を護る守護女神。だからこそ、この国は『ファクリエル女神の守護する国』という意味も込めて、ファクリスと呼ばれている。そして、この女神には供物や祈りだけではなく、讃歌も捧げられている。それを捧げるのは修道女の役目。

2年前、初めてここに来た頃のアフル。

彼女は誰にも心を開こうともせず、黙りこくったまま時間を過ごしていた。その彼女が唯一、反応をみせたもの。それが、毎日のように修道女が捧げるファクリエル讃歌だった。

そして、いつの頃からだったろう。ファクリエル讃歌を捧げる修道女のそばに、いつもアフルの姿が見えるようになった。誰にも心を開かず、喋ろうともしなかった彼女。その彼女がある時、ファクリエル讃歌を口ずさんだのだ。

その時の衝撃。

それを2年近くが経った今でも、フィレスは忘れることができない。そして、その日から少しずつではあるが、アフルは心を開くようになったのだった。


「ねえ、アフル。お願いがあるのだけれども」

「なんでしょうか、院長様」


フィレスが自分にお願い。一体、それは何だろう。アフルは不思議そうに小首を傾げている。その彼女に、フィレスはニッコリと笑いながら声を掛けていた。


「あなたが歌う、他の歌も聞いてみたいの。だって、いつもファクリエル讃歌でしょう。それが大切で、見事なことはわかるわ。でも、そればかりじゃ、飽きてしまうでしょう」

「院長様……」


フィレスの声に、アフルの声は震えてしまっている。そんな彼女の様子をフィレスは気にもしていない。彼女は自分の提案を話し続けていた。


「だから、今度は別の歌を聞かせてちょうだい。大丈夫よ。ファクリエル様も一度くらいなら、大目に見てくださるわ」

「そ、それは勘弁してください。私、ファクリエル様にしか歌を捧げないと決めております。ですから、他の歌は歌うことができません……」


フィレスの言葉に、アフルは思わず体を震わせている。そして、彼女は洗濯物を置いていることも忘れたように、その場から逃げだしていた。

アフルにとって、フィレスが何気なく言った『ファクリエル讃歌以外の歌』を歌う。そのことは、恐怖以外の何物でもなかったからだ。

アフルは闇雲にあたりを走っている。今の彼女は、自分がどこを走っているかなど考えてもいない。そうこうしている内に、アフルはいつの間にか修道院の敷地、奥深くまでやってきていた。

そこは木々が生い茂った森となり、修道院とは思えない場所。風がそよそよとそよぎ、小鳥が歌っている。そんな様子に、アフルは表情を明るくしていた。その彼女の口から、聞こえるか聞こえないかの響きでファクリエル讃歌が漏れている。

それは、女神を讃える歌。彼女以外の神々は、人に愛想を尽かしてこの世界を離れてしまった。しかし、ファクリエルのみが人を愛し、この世界に残っている。そのことに感謝し、彼女に捧げられる歌。

アフルの静かで柔らかな歌声。それがあたり一面に響いている。そして、その声に引き寄せられるかのように、森に住む動物や小鳥が近寄っていたのだ。

だが、それは信じられない光景。なぜなら、滅多に見ることのできない珍しい動物までもが、アフルのそばにやって来ている。そして、アフルの様子を気にして後を追ってきたフィレス。彼女は自分の目の前に広がる光景に、思わず息をのんでいるのだった。


「アフル……これは、どういうことなの」


ビックリしたようなフィレスの声。それを耳にしたとたん、ファクリエル讃歌がピタリと止まっている。しかし、動物たちはその場から逃げようともしない。そのことに奇異の思いを抱きながら、フィレスはアフルに近寄っていた。


「アフル、一体、どうなっているの」


フィレスの問い掛けに、思わずビクリとなっているアフル。彼女は目の前にいる動物隊の様子から、何が起こったのか瞬時に理解したのだろう。困惑した表情だけが、その顔には浮かんでいる。


「アフル、返事をしなさい」


呆然として声も出そうにないアフルの様子。そんな彼女に、フィレスは再度、声を掛けている。ようやく、声を掛ける相手が誰なのかわかったアフルの顔。それは、今にも泣き出しそうなものになっているのだった。


「院長様……私、また、やってしまいました」

「また? やってしまった? どういうわけなの」


アフルの変化の訳がフィレスには分からない。だからこそ、思わず問い返してもいる。それに対して、アフルはどこか寂しそうな表情で応えていた。


「院長様は、呪歌というものをご存知ではございませんか」

「呪歌? それは知っているわ。でも、それがどうかしたの」


アフルの顔色から、只事ではないことが分かる。それでも、フィレスはそのように感じていることをおくびにも出そうとはしていない。

そんなフィレスの様子に安心したのだろう。アフルは何度か唾を飲み込むと、思い切ったような顔でハッキリと告げているのだった。


「私は、その呪歌うたいです」


アフルの言葉に、フィレスはどう返事をすればいいのかわからない。それもそのはず。アフルの口にした『呪歌』というものがどのようなものであるか。フィレスは、それをおぼろげではあるが知っていたからだ。

『呪歌』、別名を『まじない歌』とも呼ばれるそれは、聞く者を幸せにする力があるといわれている。しかし、それはあくまでも光の一面。

『呪歌』という言葉に含まれる『呪』の文字。それが示すように、この歌は闇の一面も持っている。

その理由。それは、この呪歌というものは、歌い手の感情がダイレクトに反映されるということ。つまり、歌い手が恐怖に駆られて歌を紡いだ時。その時、それは人を殺すことも可能なものとなる。

実際、過去の王の中には、呪歌のこの性質を利用した者もいる。呪歌うたいの紡ぐ呪歌が聞こえる範囲にいる者。彼らはすべてがその影響を受けるのだから。つまり、そうやって、戦争を有利に進めようとしたのだ。そして、それを証明する記録も残っている。

もっとも、これは修道院の院長という立場であるからこそ知っている事実。このことを他に知る者は、吟遊詩人のギルドに属する者たちくらいだろう。彼らは歌を生業としている。だからこそ、呪歌が世間にあふれ、混乱を起こさないように管理もしなければいけない。

つまり、自らを『呪歌うたい』と告げるアフルは、この場にはいられなかったのだ。それを知っているからこそ、彼女はフィレスに『ここにいてもいいのか』と問い掛ける。

その返事はたしかに貰った。しかし、自分が呪歌うたいであっても、同じ返事が貰えるのか。そのことを知りたそうな目でアフルはフィレスを見ていた。そんな彼女に、フィレスはなんと返事をすればいいのかわからなくなっている。だが、思いを一度、口にしたせいだろう。アフルは堰を切ったように言葉を続けていた。


「私は呪歌うたいです。そして、かつての私は、罪を犯す手前のことをしてしまいました。本来でしたら、私は罪人となっていたはずです」

「どうして、そんなことを……たしかに、あなたの過去にあったことは聞いているわ。だからといって……」


アフルの声を思わず否定するフィレスの言葉。それに、アフルは力なく首を振っている。そして、彼女は今まで誰にも話そうとしていなかったことを口にしているのだった。



◇◆◇◆◇



その日は、冬の厳しい寒さがそろそろ緩もうか、という時期だった。

アフルの両親であるジェミニ伯夫妻は、宮廷で開かれている夜会に出席していた。その頃のアフルはまだ13歳。夜会などに出席する年齢には、まだ達していなかった。そのため、彼女は屋敷の使用人たちを両親の帰りを待ちわびているのだった。


「ばあや、お父様やお母様はまだお戻りにならないの」


退屈な時間を紛らわせるために、竪琴を奏でていたアフル。彼女は自分の乳母だったメイド長のステラに問い掛けていた。


「そうですね。もう少ししたら、お戻りになられると思いますよ。お嬢様は、もうお疲れですか。それでしたら、お休みになられた方がよろしいですよ」

「そういうわけじゃないのよ。でも、そうね。その方が、ばあやたちもゆっくりできるわよね」


無邪気な笑顔を浮かべてそう言うアフル。そんな彼女の様子に、屋敷の使用人たちは温かいまなざしを向けていた。




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