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「DIVA」
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それぞれの道 【2】

 ←それぞれの道 【1】 →呪歌と姫君 【1】
その日、アフルはいつもよりも早めに床についていた。別にこれといった理由があるわけでもないのだが、なんとなく気分がすぐれないような気がしていたというのが理由だったのかもしれない。アリオンと話をしていれば気が紛れるといえばそうなのだが、だからといって夜遅くまで彼を引き止める理由もないと彼女は思っているようだった。

そして、その日は両親ともに夜会に招待されていて帰宅が遅くなるのもあらかじめわかっていたこと。それならば、早めに自分が休めばそれだけ屋敷の使用人たちも楽ができるだろうという彼女なりの心配りもあったのだろう。しかし、早めに横になったことが災いしたのか、夜中にふと目が覚めてしまったアフルは、そのままなかなか寝付くことができなくなっていた。

じっとしていればまた睡魔がやってくるかと期待するアフル。しかし、そんな彼女の思惑をあざ笑うかのように、なかなか睡魔は訪れようとしない。

そうこうするうちに、彼女は屋敷の気配がおかしなことに気がついていた。どことなくざわついたような感じがするのだ。この時間ならば両親も帰ってきているだろうと思ったアフルはそっと自分の部屋から抜け出していた。そんな彼女の目に飛び込んできたのは信じがたい光景だった。

屋敷の入り口近くに人影がある。その影が何かを持ち上げているようだと思ったアフルはそれがわかった瞬間、恐怖に脅えるしかないようだった。

自分を大切にし、可愛がってくれている両親の血にまみれた姿。誰よりも強いと思っていた父、ミハイルの首は力なく垂れている。そして、彼女が誰よりも優しく美しいと思う母、シュゼットのドレスは血で真っ赤になっており、その首にかけられている見事な首飾りを無頓着に奪おうとしている影。

一瞬、何がおこっているのか判断することのできなかったアフルだが、その光景が意味するものを理解したとき、体が震えてくるのを止めることができないようだった。思わず、後ずさりをしたとき、壁にぶつかり、花瓶が音を立てて落ちている。その音に、アフルがその場にいたことを気づいた影はゆっくりとではあるが彼女に近寄っている。


「随分とかわいらしいお嬢さんがいたものだ。さ、どうしたものかな」

「いや、こないで……お父様とお母様をどうしたの」


答えはわかっている。それでも、アフルは思わずそう尋ねていた。そんな恐怖の色を浮かべる彼女の姿をにんまりとした顔でなめまわすような目つきでみている男。


「殺すのは勿体ないな。貴族の娘なら喜んで買おうっていう連中がいるからな。お嬢さんほど可愛らしかったら、どれほどの高値がつくかわかったもんじゃない」


そう言いつつ、自分の近寄ってくる相手。その手に捕まったら、自分がどうなるのかわかったようなわからないような状態のアフル。しかし、それでも両親の命を奪ったのが目の前の相手だろうというのだけははっきりとわかっている。小刻みに震える彼女はいかにも力なさ気で、このまま男の思うがままになってしまうのは火をみるよりも明らかなことだったのだろう。相手もそれを思っているのか、自信に満ちた表情でアフルに一歩ずつ近寄っている。


「こないで……こないでよ……」


消え入りそうな声でそう繰り返すしかできないアフル。そんな彼女の中で、彼女自身も気がついていない力がゆっくりとではあるが頭をもたげようとしていた。そして、もう少しで男の手が彼女を捕まえる。その時に、それは力を顕現したといえるのだった。


彼女の中で何かがうごめく。


それはアフル自身も止めることの出来ないものなのだろうか?


彼女の体の奥底から、声とも音ともつかぬ響きが生み出されようとしている。そして、それは屋敷の窓を揺らし、壁に響き、聞くものに恐怖しか与えようとはしていない。


「やめろ、その音を止めろ!」


思わず耳をふさぐ男の顔色が徐々に青ざめていく。


「お前、呪歌うたいか。その歌を止めろといっているのが聞こえないのか!!」


男のそんな声もアフルの耳には入っていない。彼女の目には倒れている両親の姿しか映ってはいないのだろう。


まるで心もどこかにやってしまったかのようなうつろな目の色。


何も感じないかのように焦点もあってはいない。


それでも、勝手に呪歌の響きは彼女の口から紡がれていくようだった。屋敷中に響くその音は、奥で休んでいた使用人たちの耳にも届いていたのだろう。まるで、呼び寄せられるかのように集まってくる人々。その中にはアリオンの姿も混じっている。


「アフル、止めるんだ」

自分を止める声の主が誰かということはアフルにはわかっていない。ただ、彼女の瞳にあるのはこの恐怖から逃れたいという一心だけ。そして、それがますます呪歌の力を強めているのだということを彼女は気がついてはいない。


「お、お嬢様……もう、やめてください……」


自分のことを可愛がってくれている乳母が苦しみ、倒れこむ姿もその目はうつしていない。まるで何かに操られているかのようなその姿は、見るものに恐怖しか覚えさせない。

そんなアフルの姿に彼女が呪歌に魅入られてしまったということをアリオンは気がついたのだろう。自分とミハイルが恐れていた最悪の事態が起こってしまったのだということを彼はその場で理解したようだった。どうして、彼女がここまで力を無防備に暴走させてしまったのかとあたりを見た彼は倒れているミハイルとシュゼットの姿を見つけたとたん、思わず目を背けていた。

アフルがこれを目の当たりにしたのだということを彼は本能的に感じたようだった。今まで、何不自由もなく愛情だけを注がれて生きてきたようなアフルにとって、これがどれほどのショックを与えるものになるかは想像に難くない。しかし、ここでこれ以上アフルに呪歌を暴走させるわけにはいかないのだということもアリオンにはわかっていること。これ以上、呪歌を耳にしていれば、必ず死人が出る。自分の力が人を殺すものだということをアフルが知ったら、どのようになるのかも考えるまでもないことだったろう。


「アフル、やめるんだ。もう、何も怖いことはないんだから」


自分も呪歌の影響で息をするのも苦しいはずだというのに、アリオンはアフルに恐れ気もなく近寄ると、その細い体をぎゅっと抱きしめている。そして、その目を閉じさせ、彼女に恐怖を覚えさせたものが見えないようにと配慮しながら彼は苦しい息の中、アフルに言葉をかけ続けている。


「アフル、落ち着くんだ。もう、大丈夫、だから。なにも、しんぱいすることは、ない、か、ら」

「アリオン……」


途切れ途切れに自分に語りかけるアリオンの声がようやくアフルの耳に入ったようだった。少しずつではあるが、彼女の高ぶった気持ちが落ち着いてくるのがわかる。そして、彼女の気持ちが落ち着くと同時に呪歌の響きも少しずつその色と力を失っている。

ようやく、落ち着くことのできたアフルは自分の周りで屋敷の使用人たちが苦しんでいる姿を目にしたとたん、すっかり驚いてしまっていた。そして、自分を捕まえようとした男もそこに倒れているのをみると、また先ほどまでの恐怖を思い出したのか、体が小刻みに震えてもいる。そんな彼女の様子にまた呪歌が暴走するかもしれないと危惧したアリオンは屋敷の執事に男を縛り上げるようにと伝えている。


「お前ら、気がつかないのか。この娘は化け物だ。こんな娘と一緒にいたら、命がいくつあっても足りないぞ」


呪歌の力の洗礼を誰よりも受けたであろう男の罵声が屋敷中に響いている。だが、その声にこたえるものがいるはずもない。なぜなら、屋敷の使用人はアフルの力のことを薄々感じてもいた。そして、この部屋に入ってきたときにみた主人夫妻の無残な姿。これがアフルの精神を蝕み、呪歌を顕現させたのだということをその場にいた誰もが理解していたともいえるのだった。

だが、どうしてもそのことを納得できない相手が一人だけいた。それは、呪歌を暴走させたアフル当人。彼女にしてみれば、自分のもっている力で自分のことを大切に思ってくれている人々を傷つけかけたということを許すことは到底出来なかったのだろう。そして、彼女はある決断を下しているともいえるのだった。



◇◆◇◆◇



「お嬢様、どうしてそのようなことをおっしゃるのですか?」


アフルの決心を知った誰もがそのように口々に言っていた。しかし、彼女の決意は変わることはない。


「私のわがままだと思うの。でも、これだけはやらせてちょうだい」


まだ13歳の少女の目に浮かんでいるのは強い意志の光。


「アフル、夕べのことをまだ気にしているのかい」


自分のことを気づかうようなその声にアフルは思わずそちらを振り向いていた。そこにいるのは彼女の竪琴の師でもあり、夕べの自分を命がけで止めてくれた恩人の姿。


「アリオン。そうよ、気にしているわ。だって、私、みんなを殺すところだった。そんな私がここにいてもいいはずがないでしょう」


そう言ったアフルの瞳からは大粒の涙がこぼれている。彼女は夕べの呪歌の暴走を気にやみ、すべてのことを拒絶しようとしているのだった。


「私なんかがいない方がいいんだわ。そうすれば、誰も危ない目にあわなくてもすむんですもの」

「アフル、誰も君の力のことを責めてなんかいない。呪歌の力は持ち主の意に反することもあるものだから。それに、君は何の訓練も受けていなかったんだ。両親のあんな姿を見てしまった君が呪歌を暴走させるのはおかしいことじゃない」

「それでも、私は自分で自分が許せない。だから、私の好きにさせて」


アリオンの説得もアフルの耳には届いていないようだった。頑強に自分のやったことをひたすら責め続けているアフル。彼女のそんな気持ちがわかるのか、アリオンもそれ以上は何も言うことができないようだった。それでも、一つだけ確かめたいことがある彼は、アフルの顔を正面からきちんと見つめている。


「じゃあ、君はどうしたい。ここを離れて、君はどこへ行くんだい。この家は君が継ぐべきものだろう」

「神殿に行くわ。家のことはみんなに任せるの。私が自分を許せるようになって、そして、みんなも私を許してくれるなら、その時はまたここに帰ってくる」


アフルのその声に、彼女がギルドにいくことを選択しなかったことを知り、少しは安心したような表情を浮かべているアリオン。ギルドにさえ所属しなければ、呪歌の力をコントロールさえ出来るようになればまた普通の生活にもどることも可能だろうということを彼は思っている。そして、それの手助けならば自分ができる。ミハイルが自分に頼んだのもそのことだということをアリオンは知っている。ならば、アフルが神殿に行くというのなら、自分はそのフォローをできるだけするのが役目なのだろう。


「わかったよ。それで君の気持ちが納得するのなら、そうしよう。でも、逃げるんじゃないよ。これは新しい道をみつけるためだということを忘れないでくれるよね」


アリオンのその言葉にアフルは大きく頷いている。それは、何もかもが閉ざされたと思った彼女にとって、新しく踏み出す一歩だったからなのかもしれなかった。



~Fin~






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