「Sketch」
Vol.1
思いの生まれた時
「本当にもうちょっと大人しくしてくださいませ。どれほど案じましたことか……何かあってからでは私を信頼して殿下のことをお任せくださった陛下に合わせる顔がないと身も細る思いでしたのに……」
豪奢な部屋の中。
どう見ても少女にしか見えない相手に向かってその人物はお小言の嵐を降らせ続けている。
「そんなに言わなくてもいいじゃない。心配するようなこともなかったんですもの」
「そのようなことがあったらそれこそ一大事です!! ご自分の立場、身分をお忘れですか? 殿下に何かございましたらここウェスタの元老院の方々にも迷惑がかかるというのがお判りではないのですか!!」
「そのように目を吊り上げられなくてもよろしいでしょう。幸い、こうやって無事に当屋敷にお運びいただけたのですし。それにこちらは滅多に顔を見せぬ者に久方ぶりに会えたのですから……殿下のおかげで彼女が元気でいる姿も見れましたからね」
お小言の嵐をくらっていたのはアストレア王女であるレイナ=アストリッド。隣国であり友好国でもあるウェスタに表敬訪問のため訪れたのであるが、普段見慣れたアストレアとはまた違う風景に護衛やお付きの者をまいて散策していたのを今回の訪問の最高責任者でもある侍女長に咎められているのだった。
確かに、彼女の言い分は正当なもの。
一国の王族が護衛もつけずましてや表敬訪問のために訪れた国で勝手なことをするのが許させるものでもないことはちょっとでも考えればわかるというもの。
しかし、そこはまだ10歳そこそこの少女でもあるレイナにはわかったようでわからない。
普段ならば目にすることもない、大使やそこからの客人からしか聞いたことのない風景が目の前に広がっていれば、間近で見たいと思うのも当然のことか……
おまけに今回のこの旅行には自分が一番信頼し、また安心できる相手であるクリスティーヌは同行していない。
そのこともあって余計に息が詰まると思って抜け出したのはよかったが、そのことでより一層のお小言を食らっているのだった。
そのお小言を止めてくれた相手。今回、宿泊先にもなっているこの屋敷の主たる公爵の顔をレイナはじっと見ていた。
先ほど別れた相手のことを知ってもいるような様子に好奇心がわいてきているようだった。
「先ほどのお方とはお知り合いですの? 確か、フィーナさんとかおっしゃいましたわよね?」
「ええ、よく存じております。彼女はセラフィナ・ディ・トゥーレ。ああ見ても伯爵令嬢です。ゆくゆくは当家の花嫁と思っておりましたが、そうなるかどうかは非常に危ういものですがね」
公爵のあけすけなその物言いに思わずビックリしたような顔をしたレイナであるが、先ほどのここの息子とフィーナのやりとりを思い出していたのだろう。
穏やかな笑顔をその顔には浮かべているのだった。
「急に声をかけられてビックリいたしましたの。でも、とってもお優しそうなお姉様で安心しましたわ。そうそう、一緒にいらした方は魔術師とかおっしゃっていましたわ。我が国では貴族が魔法を学ぼうなど思いもしませんでしょうに、こちらのお国ではそのようなこともあるのですわね」
「そのことでしたら彼女が変わり者なだけでしょう。本来、貴族は魔法とは無縁のもの。我らの役目は国を守ることですから。それは、殿下も同じでしょう。その御身が何を象徴するのかおわかりにならぬはずがありませんな」
遠回しに侍女長と同じようなことを言ってくるこの隣国の公爵の言葉にレイナは苦笑するしかないようだった。
わかっているというように頷いているその心の奥で機会さえあればまたお忍び歩きをしようという思いが生まれたのはこの時だったのだろうか?
~Fin~
豪奢な部屋の中。
どう見ても少女にしか見えない相手に向かってその人物はお小言の嵐を降らせ続けている。
「そんなに言わなくてもいいじゃない。心配するようなこともなかったんですもの」
「そのようなことがあったらそれこそ一大事です!! ご自分の立場、身分をお忘れですか? 殿下に何かございましたらここウェスタの元老院の方々にも迷惑がかかるというのがお判りではないのですか!!」
「そのように目を吊り上げられなくてもよろしいでしょう。幸い、こうやって無事に当屋敷にお運びいただけたのですし。それにこちらは滅多に顔を見せぬ者に久方ぶりに会えたのですから……殿下のおかげで彼女が元気でいる姿も見れましたからね」
お小言の嵐をくらっていたのはアストレア王女であるレイナ=アストリッド。隣国であり友好国でもあるウェスタに表敬訪問のため訪れたのであるが、普段見慣れたアストレアとはまた違う風景に護衛やお付きの者をまいて散策していたのを今回の訪問の最高責任者でもある侍女長に咎められているのだった。
確かに、彼女の言い分は正当なもの。
一国の王族が護衛もつけずましてや表敬訪問のために訪れた国で勝手なことをするのが許させるものでもないことはちょっとでも考えればわかるというもの。
しかし、そこはまだ10歳そこそこの少女でもあるレイナにはわかったようでわからない。
普段ならば目にすることもない、大使やそこからの客人からしか聞いたことのない風景が目の前に広がっていれば、間近で見たいと思うのも当然のことか……
おまけに今回のこの旅行には自分が一番信頼し、また安心できる相手であるクリスティーヌは同行していない。
そのこともあって余計に息が詰まると思って抜け出したのはよかったが、そのことでより一層のお小言を食らっているのだった。
そのお小言を止めてくれた相手。今回、宿泊先にもなっているこの屋敷の主たる公爵の顔をレイナはじっと見ていた。
先ほど別れた相手のことを知ってもいるような様子に好奇心がわいてきているようだった。
「先ほどのお方とはお知り合いですの? 確か、フィーナさんとかおっしゃいましたわよね?」
「ええ、よく存じております。彼女はセラフィナ・ディ・トゥーレ。ああ見ても伯爵令嬢です。ゆくゆくは当家の花嫁と思っておりましたが、そうなるかどうかは非常に危ういものですがね」
公爵のあけすけなその物言いに思わずビックリしたような顔をしたレイナであるが、先ほどのここの息子とフィーナのやりとりを思い出していたのだろう。
穏やかな笑顔をその顔には浮かべているのだった。
「急に声をかけられてビックリいたしましたの。でも、とってもお優しそうなお姉様で安心しましたわ。そうそう、一緒にいらした方は魔術師とかおっしゃっていましたわ。我が国では貴族が魔法を学ぼうなど思いもしませんでしょうに、こちらのお国ではそのようなこともあるのですわね」
「そのことでしたら彼女が変わり者なだけでしょう。本来、貴族は魔法とは無縁のもの。我らの役目は国を守ることですから。それは、殿下も同じでしょう。その御身が何を象徴するのかおわかりにならぬはずがありませんな」
遠回しに侍女長と同じようなことを言ってくるこの隣国の公爵の言葉にレイナは苦笑するしかないようだった。
わかっているというように頷いているその心の奥で機会さえあればまたお忍び歩きをしようという思いが生まれたのはこの時だったのだろうか?
~Fin~
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