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【  2014年01月  】 

序 【1】

泡沫の虹

2014.01.28 (Tue)

 扇屋徳次郎は持っていた煙管(キセル)を煙草盆でポンと叩くと、これ以上はないというしかめ面を浮かべていた。「旦那さま、どうなさいましたか?」店の主人が不機嫌な顔をしていると客の足が遠のく、と考える番頭の彦太郎が徳次郎に声をかける。だが、徳次郎の表情が晴れる気配はない。しかし、そのような姿を店先では見せないのが徳次郎の信念であるはず。だというのにこのような姿をさらしている。彼がそうなってしまう理由に思い...全文を読む

序 【2】

泡沫の虹

2014.01.28 (Tue)

 「扇屋がそうしてくれと言っているのだ。心配することはない。それよりも、儂としてはお前から別の話の返事がいつもらえるのかと思っているのだがな」思わせぶりな清兵衛の声に、嘉兵衛は顔色一つ変えようとはしない。彼は何事もない様子で、清兵衛の顔をみつめていた。「旦那さまがおっしゃっておられることはわかっております。しかし、あたしなどでは畏れ多いというものです」「どうしてだ。儂にすれば、お前と糸が一緒になって...全文を読む

熱 【1】

泡沫の虹

2014.01.29 (Wed)

 その日、嘉兵衛は弥平次を連れて、得意先回りに精を出していた。 先日より、住み込みの手代として置いている弥平次が思ったよりも役に立つ。そのことに、嘉兵衛は心の中で喜んでいた。なにしろ、気の利いた手代が集まらない、と嘆いていたのが彼なのだ。やってきた経緯に問題があるかもしれないが、嘉兵衛の眼鏡に適ったあたりでそれも気にされなくなっている。 「腐っても鯛、とはこのことかな?」 思わず、そんな言...全文を読む

熱 【2】

泡沫の虹

2014.01.29 (Wed)

 そう言いたげな顔で腰を浮かしかける嘉兵衛を、清兵衛は穏やかな調子で引きとめていた。 「心配することはない。そのために、弥平次を迎えにやったのだからな」 清兵衛の声に、嘉兵衛は言葉を失っている。今まで、そういう時に糸を迎えに行く役目は自分だったのではないか。そう言いたげな光がその目には浮かんでいる。 「何か不満でもあるのかな? 番頭であるお前をいつも迎えに行かせていては、周りに示しがつか...全文を読む

涙 【1】

泡沫の虹

2014.01.29 (Wed)

 降りしきる雨の中、互いの思いを確認し合った糸と弥平次だが、それを隠しておかなければいけないことを二人はよく知っている。 たしかに、弥平次は扇屋という大店の息子だが、勘当状態で井筒屋に奉公している手代。そして、糸はその井筒屋の家付き娘。そんな二人の関係を父親である清兵衛が認めるはずがない。 それでも、若い二人は思いを抑えることができない。いつの間にか、二人は人目につかぬようにこっそりと逢引を繰り...全文を読む

涙 【2】

泡沫の虹

2014.01.29 (Wed)

 そう言うと、清兵衛は嘉兵衛の返事を待たずに、そのまま奥へと姿を消す。その彼の姿を見送った嘉兵衛の顔には、それまでの遠慮をしたものとは違う、満足しきった笑みが浮かんでいた。 「やっと、旦那さまもその気になられたか。本当に時間がかかった。だが、これで大手をふってお嬢さんを抱けるというものだ」 誰にも聞こえないように、こっそりと呟かれる言葉。そこからは、彼の欲望が如実に感じられる。今の彼は、夜に...全文を読む

壊 【1】

泡沫の虹

2014.01.29 (Wed)

 その次の日の朝、井筒屋の奥はちょっとした騒ぎになっていた。 「夜、お嬢さまはちゃんといらしたのね?」 女中頭の女の声が鋭くかけられる。それに対して、夕べの戸締りを見回った下女二人は、こくこくと頷くことしかできなかった。 「ねえ、あのことは言わなくてもいいわよね」 「うん。だって、あの時はちゃんといらしたんだし……」 夕べ、糸の部屋に誰かが忍んできていたことを話した方がいいかと、二人...全文を読む

壊 【2】

泡沫の虹

2014.01.29 (Wed)

 「一緒にいたのは、若い男の人でした。顔はよく見えませんでしたが、すらりとした姿のいい人で、その人と一緒にあちらの方に向かっていました」 そう言いながら婢が指し示す方向。そこにあるのが何か思い当った嘉兵衛の顔は、ようやく安堵の色が浮かびあがっていた。そんな彼に、胡蝶はしなだれるようにもたれかかる。 「旦那さま、少しはお役に立ちましたかしら」 嘉兵衛の表情を見ていると、それは間違いない。そ...全文を読む

風花

Vol.1

2014.01.30 (Thu)

 「あれ? 何か降ってない?」「ああ、風花だね」「かざ……? 何?」「『かざばな』風の花って書くんだけどね。今日みたいな冬の晴れた日に降る雪のこと。まるで花びらが舞ってるようだろ?」「うん……綺麗ね……」 そう言いながら少女は手を差し出していた。 その手の上にひらひらと雪が舞い落ちている。 自分の手の上で儚くとけていく雪を彼女はじっと見つめていた。 その表情には、年に似つかわしくないような憂いが潜んでいる...全文を読む

思いの生まれた時

Vol.1

2014.01.30 (Thu)

 「本当にもうちょっと大人しくしてくださいませ。どれほど案じましたことか……何かあってからでは私を信頼して殿下のことをお任せくださった陛下に合わせる顔がないと身も細る思いでしたのに……」 豪奢な部屋の中。 どう見ても少女にしか見えない相手に向かってその人物はお小言の嵐を降らせ続けている。「そんなに言わなくてもいいじゃない。心配するようなこともなかったんですもの」「そのようなことがあったらそれこそ一大事で...全文を読む

八神姫

Vol.1

2014.01.30 (Thu)

 「この愚か者」 御簾の中から苦々しげにそう言っている男。そんな彼の目には、かしこまって頭を垂れている女の姿が映っていた。「このような失態をさらして、よく、おめおめと帰ってくることができたものだな」「殿、申し訳ありません」 頭を垂れ、平伏している女の口から微かに詫びをいれる声が聞こえている。しかし、その姿勢にはどこかぎこちなさもいえるような感じがしないでもない。何かを必死でこらえているようにもみえる...全文を読む

はじめに

未分類

2014.01.30 (Thu)

 さまざまなお部屋を用意しております。お好みにあわせてご訪問ください。なお、それぞれのタイトルでは分かりにく部分があるのと、長編・短編が混然一体となっております。ですので、それぞれのお部屋の説明をかねたMAPを作成しております。そちらを一読の上、お部屋を選んでいただけますようお願いいたします。なお、当サイトではキリバンを設けております。100単位の数字、および1234などの連番がそれに相当いたします。キリバン...全文を読む

歪んだ曼珠沙華

Vol.1

2014.01.30 (Thu)

 どこからともなく漂ってくるのは金木犀の甘い香り。抜けるような青空に浮かぶのは、真っ赤に色づいた赤とんぼ。急ぎ足で深くなっていく秋を楽しむかのように、真鍋は大きく息を吸っていた。澄み切った空気はどこか凛とした気配を帯び、寝苦しいと思っていた夜も一日ごとに過ごしやすくなっていく。だが、この時期というのはほんの一瞬でしかない。そのことにどこか物悲しさを覚えるよりは、楽しんだ方がいいと真鍋は思い、気持ちの...全文を読む

FABLE

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2014.01.31 (Fri)

 剣と魔法のファンタジーになっております。平和な王国を揺るがすような事件。人々から愛されている王女アルディスが忽然とその姿を消してしまっていた。犯人からは何の要求もなく、王女の生死も一切が不明。そのことに心を痛めた国王は、王女の話相手であるセシリアにその探索を命じていた。セシリアは無事に王女を見つけることができるのか?さまざまな謎と思惑が入り乱れていく。上記の作品をメインストーリーに。他にもこの作品...全文を読む

DIVA

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2014.01.31 (Fri)

 オムニバスのラブファンタジーです。女神ファクリエルを信仰する王国ファクリス。そこの貴族の娘として生まれたアフルには、呪歌歌い(ジュカウタイ)という秘密があった。――呪歌歌いはギルドに所属するべし――それは昔からの慣例だが、貴族の令嬢である彼女のことまでは知られていない。しかし――呪歌歌いを集めようとするギルドの長老。貴族であることを盾として、娘を守ろうとする両親。アフルに恋心を抱くギルドの若者。長老の暴走に頭...全文を読む

Sketch

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2014.01.31 (Fri)

 気ままに綴った短編です。リクエストなどで書いたものも含まれます。基本、読み切りサイズ。5000文字以内のものをこちらに掲載しています。読み切りでも5000文字以上になるものは独立した作品となっております。なお、各シリーズ物に関しては、該当シリーズでの展開になっています。ご了承ください。Vol.1...全文を読む

泡沫の虹

MAP

2014.01.31 (Fri)

 勘当された道楽息子。巷で有名な小町娘。彼女の婿の座を狙う番頭。それぞれの思いはまるで泡沫のように、虹のように儚いものなのか……時代物を意識しております。そのために難読漢字が出てくる可能性があります。登場人物名など読みにくいと思われるものには適宜、振り仮名をつけておりますが、それ以外にも必要と思われる部分があればご連絡いただければ幸いです。こちらよりゆっくりとお楽しみくださいませ...全文を読む

密やかな宣戦布告

Vol.1

2014.01.31 (Fri)

 ふわり、と風が揺れる。その風が吹き抜けた先で、男が二人、睨み合いの応酬を繰り広げていた。どちらも、目立つことは間違いのない容姿。もっとも、眼鏡をかけた方の男は、こういうことをするようなタイプにはみえない。しかし、彼はどこか冷たい視線で目の前の男を睨みつけている。そして、その口からは刺々しい声が漏れていた。「どうして、あなたがここにいるんですか?」その声に、相手はフンと鼻をならすと軽く肩をゆする。そ...全文を読む

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